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Piano and Microphone/ Prince(2018)


プリンスの未発表曲は全部で10000曲分以上あるらしい。
1万曲って。

これは1983年自宅スタジオで収録されたピアノ弾き語り音源集。
去年発売された。

音源集というか、自宅のピアノを適当に弾きながら歌ってたのをたまたまカセットに録音してた、くらいの内容に聴こえる。プリンスが生きてたら絶対リリースはしてない。なので作品ではなく、あくまでもたまたま日の目を浴びることになった「音源集」。


プリンスの音楽を難解だという人がいる。
というか結構多いと思う。
確かにプリンスの音楽はマイケル・ジャクソンみたいな爽快感のあるポップスではないのだけど、実際には驚くくらいシンプルだ。
ただジャンルの垣根を無視しているから、その枠組みにとらわれがちな聴き手としては「この人なにがしたいんだ」と思えてしまう。それを「難解」と勘違いしてしまっているだけのことだ。
変な曲は多いが、難解ではない。


「音楽にジャンルは関係ないよ」とミュージシャンはみんな言うだろうが、それを地で行ってるアーティストはそうそういない。
だから聴き手も完全にフラットで聴く、という行為にはどうしても慣れないのだ。
ノンジャンルだと受け入れて聴けば、プリンスの音楽は恐ろしいくらいにシンプルだ


この音源集は最初から最後までプリンスの歌声とピアノの音だけなので、プリンスと言われて
イメージするサウンドとは真逆。
とても音が生々しく、迫力がある。プリンスが鼻をすする音まで聞こえる。
デジタルサウンドやエフェクト無しの曲の骨格をピアノと歌声だけで聴くことができるので、プリンスの音楽が分かりづらいという人は聴いてみるといいかもしれない。

オススメの何曲か。


2.Purple Rain
リリースされる1年前の、多分まだ制作中の1分半だけの音源。完成形とはだいぶアレンジが違う静かな印象だけど、これはこれでとてもいい。


4.Mary Don't You Weep
アメリカの黒人霊歌(宗教歌)。プリンスの美しすぎるファルセットや暴走寸前の唸るような歌声が聴ける。プリンスのアカペラに近いような歌声を楽しめるのもこの音楽集の素晴らしいところ。


5.Strange Relationship
4年後の名盤「Sign O' Times」に収録されることになる曲。80年代のプリンスはほぼ毎年アルバムをリリースしていたものの、それでもアルバムごとにコンセプトを絞らないとリリースが追いつかないような状態だったので、少し時期を待ったのだと思う。


6.International Lover
「1999」に収録されたバラード。ピアノだけバージョンでこれを聴けるのはありがたい。それにしても当たり前だけど、ピアノが信じられないくらいにうまい。ピアニストとしてだけでも超一流レベルで食ってけるくらいうまい。


7.Wednesday
未発表曲。静かなファルセットで歌う素晴らしいバラード。未発表曲であることに驚愕する、こんなのが1万曲がプリンス邸の金庫にしまわれて管理されてるんだろうか。2分だけの音源だけど、プリンスならこれをどんな風にプロデュースしてただろう。


9.Why The Butterfly
多分、完全に作曲している様子の音源。一つのコードを繰り返しながら色々なヴォーカルスタイルを載せていくプリンスの様子が伺える。たった一つの音だけから曲を作り上げかけているプリンスの天才っぷり。


このピアノと歌声の音源集だけでプリンスの才能の全容を理解することは出来ない。
プリンスは作詞、作曲、編曲、プロデュース、ヴォーカル、ギター、キーボード、ベース、ドラム、全てを世界最高レベルでこなした音楽史に残る天才だ。
1人でそれを全てこなしてしまっていたからこそ、ピアノと歌声だけで曲の骨格を見ることができるこの音源集はとても貴重。
でもこれがリリースされたことを知ったら、プリンスは多分怒る。