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肺がんと闘いながらの魂の叫び ロニー・アトキンス「One Shot」

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「俺もパニックに陥った。しかし、やがてこの状況に対峙する方法が2 つあることに気がついた。何もせず、ただ自分を哀れむか。それとも気をしっかり持って、ゴールを定め、夢を追って生き続けるか。俺は後者を選択した。」

言うまでもなく、デンマークの伝説Pretty Maidsのヴォーカルとして14枚のアルバムをリリースしてきたロニー・アトキンスは、シーンを代表するフロントマンの一人だ。
そんな彼の40年に及ぶキャリア初のソロアルバムが2021年3月12日、リリースされた。
初めてのソロアルバムであり、それ以上に、本人にとってもファンにとっても特別な意味を持つ作品である。

ロニーは2019年10月にガンと診断されていたことを公表した。しばらくのあいだ、治療はうまくいっていたように思えたが、2020年4月に骨への転移が確認され、ステージ4であると分かったのだ。
前回は「治せる病気だ」と言った医者も、今回はそうは言わなかった。

パンデミックのさなか、Pretty Maidsとしての活動もできない中で、彼は何かに集中をしようと、自宅で曲作りをし、それを自分のi-Phoneに録音していった。
そしてそれを音楽界に残す自身のレガシーとして、作品にすることにしたのだ。

進行中の病とどう対峙するか。
その答えがこの「One Shot」である。

Pretty Maidsのバンドメイトでありプロデューサーでもあるクリス・レイニーとチームを組み、曲に命を吹き込む作業が始まった。
元Pretty Maidsのアラン・ソーレンソン、モーテン・サンドガー、元Europeのキー・マルセロ、Hammerfallのポンタス・ノルグレン、Soilworkのビョーン・ストリッドらもこのプロジェクトに駆けつけ、ここにロニー・アトキンス初のソロアルバム「One Shot」が完成したのだ。

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プリティ・メイズの新作を待っている人もいるかもしれないが、「One Shot 」はそういう作品ではない。
このアルバムはソウルフルな歌詞、情熱的な演奏、メロディとハーモニックなライン、そして何よりもロニー・アトキンスの澄みきった、滑らかなヴォーカルが前面に出ている、真のメロディアス・ロック作品だ。
セックス、ドラッグ、ロックンロールでもない。病と闘うロニー・アトキンスの極めて個人的、そしてこれが大事だが、ポジティブな内容になっている。
そうなってくると、一人のファンとしては、このアルバムを客観的にいい悪いと評価するのは難しすぎるのだが、すべての事情を無視してもなお、これは素晴らしいアルバムだと言えるからすごい。

繊細で洗練された1曲目の「Real」を皮切りに、
これまでロニーが書いてきた中でも最高の曲の一つではないかと思わせる「Scorpio」、
ロディアスなアンセムの「One Shot」、キーボードを多用したJourney風ハードポップの「Frequency Of Love」「Picture Yourself」、
ソウルフルなメロディアスハードの「Miles Away」、80年代風の華やかな「When Dreams Are Not Enough」など、全編に渡ってリフよりはメロディに注力した見事な楽曲が並ぶ。
随所にPretty Maidsの様式美を見せながらも、これまでには無かった、ロニーのヴォーカルを最大限に活かす新たなサウンドを産み出している。

逆境こそが最大の英雄を産む。
そして忍び寄る死の足跡は、最大の逆境だ。
奇跡が起こらない限りは不治であり、これが自身の最後の作品となる可能性が高いことをロニーはインタビューで口にしているが、同時にコロナが明けたら世界のファンに会いに行きたい、とも語っている。
これが最後のワンショットになるのかどうかは誰にも分からない。しかしもし仮にそうであったとしても、ロニー・アトキンスの栄光のキャリアをくくるに恥じない、それどころか最も魂のこもった傑作がこの「One Shot」だ。

「One Shot」