海外メディアが報じる日本

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チャップリン講談

チャップリンサイレント映画にこだわりを持っていた。
ある日、映画会社の重役がチャップリンに言う。
チャップリンさん、今は音声で人を楽しませる時代です。もう9割の映画はトーキーなんですよ。あなたも、そろそろトーキーを作ってください。」

チャップリンは答えた。
「じゃあ聞くが、音声を使うとどんなメリットがあるんだ?分かりやすさ?伝わりやすさ?
それと引き換えに何を犠牲にするか、君には分かるか。
想像力だよ。一番大切な想像力だ。音が無いからこそ、見てくれる人の想像力を掻き立てるんだ。君も芸術に関わる人間なら、それくらいは分かるだろう。」
そういって彼はまた新しいサイレント映画を作った。

製作期間は実に3年あまり。
出来上がった映画「町の灯」は世界中で大ヒットを記録する。
「やっぱりまだ世の中はパントマイムを求めている。パントマイムこそが、世界の共通言語なんだ。」

しかし7年後、彼はこの発言を撤回する。
ユダヤ人の映画プロデューサーがチャップリンに言った。
チャップリンさん、僕らユダヤ人が今どれくらい怯えているか、知っていますか?一人のドイツ人がユダヤ人を絶滅させようとしているのです。そいつは、あなたと同い年の男、しかも誕生日はたった4日違いです。あなたと同じように、トレードマークはチョビひげです。あの男は今にこのアメリカを、いやこの世界を壊してしまうでしょう。」

「なに?俺と誕生日が4日しか変わらない男?でもアメリカじゃ、そんなこと誰も話題にしてないじゃないか。」

「そうです。だからこそ、どうにか。」

チャップリンはトーキーを作ることを決意した。
そしてあの有名な演説シーンをどのシーンよりも先に撮影した。

我々は決して憎みあったりはしない。
我々はみんなが幸せになるために生きている。
自由は決して滅びない。


こうしてチャップリンは初めての全編トーキーの映画「独裁者」を作った。
この作品は彼の最大のヒットとなった。
しかし彼の思いとは裏腹に、映画の公開の翌年、アメリカは第二次世界大戦へと突入した。