2014年8月、俳優のロビン・ウィリアムズが亡くなった時、悲しんだのは人間だけではなかった。
カリフォルニア州ゴリラ・ファウンデーション保護センターのゴリラ「ココ」も、知らせを聞いて悲しんでいた。
ココは、死という概念を理解していた。
彼女は手話ができた。
彼女に手話を覚えさせた飼育員のペニー・パターソンがココに尋ねた。
このぬいぐるみは、生きている?死んでいる?
ココは答えた。
「死んでいる。」
ゴリラは死ぬ時に、どう感じる?
「眠る。」
ゴリラは、死ぬとどこに行くの?
「苦痛の無い穴に、さようなら。」
ココはペットを飼っていた。
彼女が12才の時に、猫を与えられた。
飼育員は最初、ココが猫を殺めてしまうのではないか、警戒していた。
しかしココは、まるで人間が猫を飼うかのように、その猫を可愛いがった。
彼女は猫を、「オール・ボール」と名付けた。
潰したりしてしまわないよう、優しく体を撫で、抱き寄せた。
この様子はナショナル・ジオグラフィック誌に特集され、ココは「手話を使い、ペットを飼うゴリラ」として一躍有名になった。
1985年、猫のオール・ボールは車に轢かれて死んだ。
パターソンはココに伝えた。
「オールボールは死んでしまった。」
ココは10分ほどうつむいてから、声を上げて泣き出した。
しばらくして落ち着いたあと、手話でこう言った。
「猫。眠れ。」
2001年には子供の頃から一緒に育ったゴリラのマイケルが死ぬ。
半年間、うつむいたままだったココのもとにやってきたのは、俳優のロビン・ウィリアムズ。
ココは彼と仲良くなり、ウィリアムズのメガネや財布で遊んだり、くすぐり合ったりした。
半年ぶりに、ココは笑顔を見せた。
ロビン・ウィリアムズは振り返る。
僕らは素晴らしいものを分かち合った。
笑うことだ。
ココは、日常のこと、生きること、愛すること、死ぬことについて気持ちを手話で伝えてくれる。
忘れられない経験だ。
2014年、ロビン・ウィリアムズの訃報を聞いたココはまた塞ぎこむ。
手話で一言だけ伝えた。
「泣いている。」
ココにまつわるエピソードには、いくつか明らかな誇張も含まれている。
例えば、「ココは地球環境保護を人類に警鐘している」といったキャンペーンは、やり過ぎ。
人類がアフリカで何をしているかなどココは知らなかった。
だからと言ってココにまつわるエピソードが全部でっち上げだというのも、また言い過ぎだ。
ココは手話で実際に話をしたし、猫を愛し、親しい者が死ねば悲しんだ。
これだけで充分。
ゴリラは凶暴。
このイメージが間違いだったことをココは証明してみせた。
2018年、ココは46才で死んだ。