2010年代前半、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)の全盛期。
それまでは裏方に過ぎなかったDJやプロデューサーが、一番カッコいい職業となった。
ライブもEDMが一番盛り上がる時代。
だから稼ぎもEDMのDJ達が郡を抜いていた。
2013年、マイアミのウルトラミュージックフェスティバルでの出来事。
彼はここで本名を使う。
「ティム・バークリング」のステージが始まった。
なんと彼は、バンドを引き連れて登場した。
ドラムとギターとベースとヴォーカル。
通常、EDMはDJが一人でコンピューターやターンテーブルやシンセを駆使して、度肝を抜くような照明などで盛り上げるのだが、ステージに上がったのはバンドだった。
新曲を発表すると言い、演奏が始まった。
3分の1くらいの客が彼らにブーイングを浴びせた。
なんでバンドなんだよ。
しかも良く聴いたら、まるでカントリーじゃないか。
もちろんティム・バークリングは色々ヒット曲を持っていたので最終的にはステージを強引に盛り上げだ。
しかしこの事件はSNSをはじめ色んなところで取り上げられだ。
EDM系の評論家達は立派だった。
EDMはみんなパターン化しているじゃないか。
同じようなフレーズで、同じ盛り上がり方をしている。歌詞もみんな「踊れ踊れ」みたいな似たようなものばかり。
すでにEDMはマンネリに入っている。
そんな中でのティム・バークリングの新曲は、今までのEDMには無かったような曲だ。
あのライブは小さな革命だった。
ティム・バークリングのライブはまるで1965年のフォークフェスティバルでのボブ・ディラン。
ディランはこの時、フォークでは誰も使わなかったエレキギターを使った。観客は大ブーイングで、誰も聴きやしなかった。
ディランは泣きながらステージを降りた。
この時のフォークの客と、2013年のEDMの客はどこが違うのか。
全く同じじゃないか。
優れた新しいものの良さが、分からなかったじゃないか。
そして良く考えてみるとこの曲は2重に美味しい。
歌によるサビがあって、EDMのインストとしてのサビのようなものがある。
2回も盛り上がる。
2回美味しいこの新曲は、結局世界27か国でナンバーワンを獲得した。
彼のステージネームはサンスクリット語で、「無限地獄」という意味だった。
約1年前にアヴィーチーが亡くなった時、この曲の歌詞は少し話題となった。
Aviciiは小さな革命を起こして、この世を去った。
彼らは言う
お前は夢の中にいるのだと
そう、目をつむってれば、人生は過ぎ去る
僕はそれでいい
だから全てが終わった時に
僕をまた起こしてほしい