海外メディアが報じる日本

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グリコ創業講談

江崎の実家は地元では有名な薬屋だった。
長男だった彼は幼い頃から薬屋を手伝っていたが、店の経営は火の車だった。
生活は苦しく、学校に行くのもままならない日々。

江崎は学ぶことが好きで、近所に住む寺子屋の先生のもとに行っては、色んなことを教えてもらっていた。

先生は言った。
「今日はお前に商売について教えてやろう。いいか、商売は自分の為だけではなく、世の中の為にやるものなんだ。自分だけ儲けるのは商売ではない。世の中が得をしなくちゃ駄目なんだ。」

「そうなんだ・・・。世の中が得をする。それが商売なんだ。」

しかし父親が亡くなってからは、自分が一家の大黒柱。
先生の言葉はすっかり忘れて、彼の頭は借金の返済でいっぱいだった。
やれる仕事は何でもやる。思いついたことは何でもがむしゃらに取り組んだ。

最初に目を付けたのは、滋養強壮の薬として飲まれていた、ワインだった。
樽に入っているワインを瓶に移し替えて売る商売を始め、これが当たって、彼は親が作った借金を全て返すことができ、家庭を持つこともできた。

そんな時、彼を悲劇が遅った。

「残念ながら、あなたの息子さんの病名は、腸チフスです。」
彼の幼い息子は、死の病と言われた腸チフスに侵された。

「仕事ばかりで息子に目が向かなかったからこんなことに・・・」
彼は酷く落ち込んだ。

息子の体重は日に日に落ちていった。
医者が言った。
「手を尽くしていますが、こればかりは何とも難しいです。」

「いかん。俺の手でなんとかしないと・・・。そう言えばこの間研究していた、牡蠣を煮た時に出る煮汁。栄養たっぷりのあの煮汁を、薬として商品化出来ないかな。」

「先生、息子に牡蠣の煮汁を与えたいです。お願いします。」

「私は責任は取りません。しかし薬屋のあなたがそういうなら、やってみたらいいです。」

彼は牡蠣の煮汁を毎日病床の息子に与えた。
すると息子はみるみるうちに元気を取り戻し、死の病と言われていた腸チフスから生還したのだった。

「やったぞ。この牡蠣のエキスはとんでもないパワーを秘めてるんだ。」

こうして彼は牡蠣のエキスで商売をすることを思い付いた。
「さあ、これでどうやって商売をするか。」

不意に、あの先生の声が彼の耳に蘇った。

世の中が得をする、それこそが商売なんだ。

「そうか、これを薬にしちゃいけないんだ。薬だと値段が高い。困っている子供の元には届かない。これはお菓子にしよう。それならきっと世の中が得をするものになる。」

こうして出来上がったのは、牡蠣のエキスから取ったグリコーゲン入りのキャラメル、グリコだった。