言うまでもなく、アメリカはロックミュージック最大の市場であり、また最大の輸出国である。あらゆるカルチャーの中心であり、世界はいつでもアメリカの方を向いている(いまのところは)。アメリカで成功することは、つまり世界で成功したのとほぼ同義である。
70年代の王道ロック、スラッシュメタルの登場、L.A.メタルとMTVカルチャー、そして21世紀のヘヴィロック。この巨大な市場からは星の数ほどのバンドが現れ、消えていった。下記で紹介するのはその中で歴史に名を残すことととなった、ほんの一握りの偉大なバンド達である。
Aerosmith(エアロスミス)
言わずと知れたアメリカン・ロックの王者。ブルーズやR&Bをベースにしたブリティッシュ・ロック的なアプローチながらファンクやカントリーと言った要素も取り込み、また商業的なヒット曲も多く書いたことで名実ともに世界最大のロックバンドの一つとなった。日本ではキッス、クイーンとともに70年代の3大バンドと呼ばれる。
Kiss(キッス)
ジーン・シモンズとポール・スタンレーを中心に結成された地獄のロック軍団。キャッチーなロックサウンドだけでなく、派手なメイクやエンターテインメントの限りを尽くしたライブパフォーマンス、大規模なグッズ展開など、以後のロック・カルチャーにも大きな影響を及ぼした。70年代の印象が強いが、80年代以降も優れたアルバムを制作し続けた。2019年のツアーをもって活動を終了。
Van Halen(ヴァン・ヘイレン)
1978年「炎の導火線」でデビュー、エディ・ヴァン・ヘイレンのライトハンド奏法が全世界に衝撃を与える。革命的なギターパフォーマンスと作曲能力の高さで世界的人気を博す。デイヴ・リー・ロス→サミー・ヘイガー→ゲイリー・シェローン→サミー・ヘイガ―→デイヴ・リー・ロスと回文的なヴォーカル変遷で活動を続けるも、2020年10月、エディの死去により活動は事実上終焉。
Journey(ジャーニー)
産業ロックの王者。デビュー直後はプログレハードロックを披露していたが、大衆的な方向にシフト。劇的なプロダクション、感動的なメロディ、分厚いコーラスを全面に押し出したスタイルでジャンルを確立。2007年に新ヴォーカリスト、アーネル・ピネダが加入し、良作を2枚リリースするが、2011年の「Eclipse」を最後にアルバムリリースは無い状態が続いている。
Metallica(メタリカ)
1983年デビュー。1986年の歴史的傑作「Master Of Puppets(メタル・マスター)」でスラッシュメタルを、1990年「Metallica(ブラック・アルバム)」で以後のヘヴィミュージックを定義付けた、世界最大の影響力を誇るヘヴィメタルバンド。
Megadeth(メガデス)
デビュー前にメタリカをクビになったデイヴ・ムステインが結成、1985年デビュー。複雑なリフや、情け容赦ないツイン・ギターとリズム・セクション、社会的な歌詞が特徴だが、世界的バンドになり得たのは常にキャッチーさを忘れなかったから。Metallica以上にコンスタントにアルバムを作り続けていて、グラミー賞の常連でもある。
Slayer(スレイヤー)
1983年デビュー、エクストリーム・メタルの始祖的存在。極限を超越した速度といかにも不気味な不協和音を巧みに構成したSlayerのサウンドは多くのフォロワーを産んだ。メンバーたちは悪魔崇拝主義者等では全くなく、「当時チャラついていたL.Aの奴らを怖がらせるのが愉快だった」(トム・アラヤ)。Metallica・Megadeth・Anthraxと共にスラッシュメタル四天王(Big 4)と称される。2019年、活動を終了。
Anthrax(アンスラックス)
1983年デビュー、Big 4の一角。スラッシュメタルにとどまらずファンクやヒップホップの要素も取り込んだ自由な音楽スタイルで世界的な支持を得る。90年代以降のミクスチャー・ロックに多大な影響を与えた。
Guns n' roses(ガンズ・アンド・ローゼズ)
1987年、伝説的デビューアルバム「Appetite For Destruction」で登場。変幻自在のヴォーカリスト、アクセル・ローズと作曲の天才スラッシュにより一時代を築く。90年代後半以降活動を休止していたが、2008年に「Chinese Democracy」をリリース、2016年にはスラッシュとダフが復帰してのツアーを敢行。新作のリリースが待たれる。
Bon Jovi(ボン・ジョヴィ)
1984年デビュー。「Livin' On A Prayer」「It's My Life」など不滅のアンセムや極上のバラードを書き続ける。21世紀に入ってからはよりメッセージ性の強い作風にシフトしているが、作曲能力の高さは健在。ルックスの良さも手伝い、アルバム総売り上げ1億3000万枚以上と、ハードロックバンドして最大の成功を収めている存在。
Motley Crue(モトリー・クルー)
華やかでキャッチーな音楽性、スキャンダラスなライフスタイルなど、80年代グラムメタルを象徴するバンド。2015年に解散ツアーを行うが、2019年に復活。アルバムを出すのかツアーをやるのかは、はっきりしていない。
Alice Cooper(アリス・クーパー)
1969年デビュー。ロックミュージックとホラー、演劇を融合させた「ショックロック」の第一人者であり、後のロック文化に大きな影響を与えた重鎮。B級へヴィ・サウンドとアリス節のダミ声唱法で多くのキッズの人気を博した。気さくな人柄で「セサミ・ストリート」にも本人役で出演。
Mr.Big(ミスター・ビッグ)
1989年デビュー。デイヴ・リー・ロス・バンド等で活躍していたビリー・シーンを中心に結成されたスーパーバンド。メロディアスなハードロックサウンドで取り分け日本で人気を博した。2008年に再結成後3枚アルバムをリリースしたが、2018年にパット・トーピー(ds)が死去。以降の活動については未定の状態となっている。
Dream Theater(ドリーム・シアター)
1992年デビュー、名実ともにプログレメタルの頂点に立つバンド。高度な音楽理論に裏打ちされた緻密で劇的な構成と各メンバーの超人的な演奏技術で高い支持を得ている。
Cheap Trick(チープ・トリック)
ハード・ポップの第一人者。先に日本でアイドル的人気で火が付き、1978年のライブ「at Budokan」で世界的人気バンドとなると同時に、コンサート会場としての日本武道館の存在を世界的な存在にした。現在も活動し続けており、不老不死っぷりはAerosmith以上。ハード・ポップの炎を絶やすまいとする多くの若手バンドたちからリスペクトを集め続けている。
Heart(ハート)
女性ヴォーカルの本格的ハードロックバンドの先駆け的存在。Led Zeppelinやグラムロックに影響を受けたロックサウンドをベースにしながらも商業的な曲も書き、世界的人気となった。今も現役で活動を続けている。
Slipknot(スリップノット)
1999年デビュー。パンク・へヴィメタル・インダストリアル・ヒップホップをごった煮にして吐き出したようなカオスかつ攻撃的な音楽スタイル、圧巻のライブパフォーマンスでヘヴィミュージックファンを熱狂させる21世紀最大のモンスターバンド。
Pantera(パンテラ)
グルーヴを重視したギター・リフ、岩を粉砕するようなリズムで聴く者の身体を押しつぶさんばかりのヘヴィサウンドで90年代以降のヘヴィロックシーンに大きな影響を与えたバンドの一つ。2003年に解散、2004年ギタリストのダイムバッグ・ダレルがコンサート中に殺害されたことにより、再結成の道は潰えた。
Avenged Sevenfold(アヴェンジド・セブンフォールド)
2001年デビュー。ラップメタル、ハードロックなど多様な音楽性を高次元でブレンドした独自のヘヴィメタルサウンドを確立、「Nightmare」はビルボードチャート1位を記録した。近年はプログレ的なアプローチも見られる。21世紀のメタルシーンを代表するバンドの一つ。
Marilin Manson(マリリン・マンソン)
1994年デビュー。反キリスト教といった過激なメッセージは社会問題にまで発展した。サウンド面ではメタルの重量感とエレクトロの享楽性を融合させた革新的なインダストリアルサウンドであり、シンガロングできるアンセムを多く作っている。
System Of A Down(システム・オブ・ア・ダウン)
スラッシュメタルやプログレ、グランジ、ファンク、中東音楽などの要素を取り混ぜながら激しく歌い上げるヴォーカルと、なにやらコミカルな雰囲気が人気のヘヴィロックバンド。Slipknotと並ぶモンスターバンド、なのだが、最後のオリジナルアルバムは2005年にさかのぼる。2020年11月、15年ぶりとなる新曲3曲を発表も、アルバム制作については未定。
Mastodon(マストドン)
2002年デビューのプログレメタルバンド。磨きのかかったヘヴィかつプログレッシヴなサウンドで唯一無二の世界観を築く。「Blood Mountains」(2006),「Crack The Sky」(2009)等名盤を発表しており、現代最高のヘヴィメタルバンドの一つとされる。
Tool(トゥール)
現代のヘヴィロックシーンを代表するプログレメタルバンド。エキセントリックさとミステリアスさを兼ね備えた芸術的なサウンドですでにロックの重鎮の域に到達している。2019年にリリースしたアルバム「Fear Inoculum」はテイラー・スウィフト「Lover」を抜き去り3週連続ビルボードチャート1位を記録した。
Korn(コーン)
1994年デビュー、いわゆるニューメタルムーブメントの先駆者。へヴィなリフと硬質なリズム、そしてヒップホップの要素を消化し切ったサウンドはヘヴィロック界の新たな扉を切り開いた。
Queensryche(クイーンズライク)
1983年デビュー。1988年の3rd「Operation:Mindcrime」は正統派へヴィ・メタルとプログレッシヴ・ロックを融合したコンセプト・アルバムで、メタル史上10本の指に入る歴史的名盤。現在ジェフ・テイトは脱退し、トッド・ラ・トゥーレがヴォーカルを務める。
Manowar(マノウォー)
「全ての偽メタルに死を」の信条のもと真のヘヴィメタルを追求し続けるキング・オブ・メタル。様式美に則った劇的な曲展開とヒロイズム漂う詞世界にこだわるストイックさは世界のメタラーからリスペクトを集める。「世界一音がデカいバンド」「世界一長いヘヴィメタルコンサート」としてギネスに登録された(前者は聴覚障害を促す恐れがある為現在は抹消)。ヘイル。
Machine Head (マシーン・ヘッド)
ロブ・フリン(vo&g)を中心として92年に結成、1994年デビュー。PanteraやBiohazardらとともに90年代以降のグルーヴ・メタルを代表するバンドの一つ。鋭いギター・リフと硬質で重い爆裂サウンドは多くのフォロワーを産む。
Night Ranger(ナイト・レンジャー)
日本でも非常に人気が高いアメリカン・ハードの代表格。ハードさと大衆性を兼ね備えた楽曲は、メタル・キッズのみならずポップ・ファンにもアピール。89年に解散も後に再結成、現役で活動中。
Skid Row(スキッド・ロウ)
ジョン・ボン・ジョヴィとリッチー・サンボラが運営するレーベルのバックアップを受け1989年デビュー。パンキッシュなスピード感あふれるハードロックサウンド、名バラード、ヴォーカルのセバスチャン・バックの存在感などで一気に世界的人気バンドとなる。1998年にセバスチャン・バックは脱退したが、バンドは活動を順調に続けている。
Poison(ポイズン)
L.Aメタルの代表格。その軽薄さあふれる(誉め言葉)パーティ・サウンドのため硬派メタルファンからは毛嫌いされ続けていた面もあるが、超ポップでキャッチーなロックサウンドの一方、ブルージーなバラードも得意としていて、ソングライティングは一流。今は楽曲の純粋な良さが認められ、多くのロックファンから愛される(イジられる)存在となっている。
Cinderella(シンデレラ)
L.Aメタル代表バンド。ではあるものの、中心的存在であるヴォーカルのトム・キーファーは本格派のブルーズ・ロック志向であり、2nd「Long Cold Winter」以降はポップさと哀愁が見事に融合した骨太のハードロックで凄みを利かせる。歌心あふれるバラードも魅力。
Extreme(エクストリーム)
ヌーノ・ベッテンコートを擁するハードロックバンド。ファンクやジャズを取り入れたサウンドを展開し、さらにはクイーンを彷彿とさせる壮大なプログレッシヴ・スタイルにも接近。「More Than Words」のヒットも重なり、絶大な人気を誇った。2008年に再結成。
Y&T
ヴァン・ヘイレンと並ぶ西海岸ハードロックの至宝。切れ味抜群のリフ、印象に残るメロディ、重厚なコーラスと、アメリカン・ハードロックのテイストがすべて揃ったサウンドで日本でも根強い人気をを誇る。
Buckcherry(バックチェリー)
1999年デビュー、現在に至るまで一貫してパンキッシュかつメロディアスなハードロックサウンドを作り続けている。2017年にバンドの核であったギタリストのキース・ネルソンとドラマーのザビエル・ムリエルが脱退するも、2019年発表の「Warpaint」では相変わらずの安定感。
Riot(ライオット)
76年デビュー、取り分け日本の古参メタラーコミュニティ内で熱い支持と信頼を受ける正統派メロディックメタルバンド。哀愁のある旋律と泣きのツイン・リード・ギターを軸とした純度100%メタル・サウンドは日本人の心を捉え、アイドル歌手五十嵐夕記がカヴァーしてヒットしたほど。現在オリジナルメンバーは一人もいないものの、意志を継いだメンバー達により活動継続中。
Enuff Z' nuff(イナフ・ズナフ)
1989年デビュー。The BeatlesやCheap Trick譲りの、勢いやノリに頼らないメロディとドニー・ヴィーの切なく美しい歌声が魅力。現在も活動中。
Twisted Sister(トゥイステッド・シスター)
「We're Not Gonna Take It」「I Wanna Rock」等メタルキッズ向けアンセムで人を博したディー・スナイダー率いるグラムメタルバンド。馬鹿っぽいイメージとは裏腹に「ロックは子供に悪影響か」が争点となったいわゆるPMRC裁判でも活躍した。
Testament(テスタメント)
Metallica、Exodus等と並ぶベイエリア・スラッシュの代表格。切り裂くようなギター・リフと歌心あるメロディ・ラインで、独自のスラッシュサウンドを築き上げた。ヴォーカルのチャック・ビリーは難病を克服、さらに今年新型コロナウイルスにも感染したが無事回復。おめでとうございます。
Exodus(エクソダス)
ベイエリア最初のスラッシュメタルバンドとされ、四天王と並ぶ同ジャンルの先駆者。創設メンバーの中には現Metallicaのカーク・ハメットもいた。高速連射されるザクザクとしたリフとワイルドなシャウトが特徴的で、Testament、Death Angelらとともにベイエリア・クランチと呼ばれる。
Soulfly(ソウルフライ)
元Sepulturaのマックス・カヴァレラが結成。Sepultura譲りのブラジルやアフリカ音楽を取り入れた豪快なヘヴィメタルサウンドが特徴。カヴァレラのヘヴィ・ミュージックへの愛情が感じられるサウンドは多くのロックファンから支持を集める。
The Black Crowes(ザ・ブラック・クロウズ)
1990年デビュー。ブルースをベースにしたヘヴィなギターとしゃがれたヴォーカルのクラシックロックを反映したサウンドで人気を博す。現在は解散し、ギタリストのリッチと旧メンバーがMagpie Saluteを結成、活動している。
Godsmack(ゴッドスマック)
1996年デビュー、3作連続ビルボードチャート1位も達成した、現在アメリカを代表するヘヴィロックバンド。ダークでヘヴィながらキャッチーさを兼ね備えたグランジ系メタル。
Five Finger Death Punch(ファイヴ・フィンガー・デス・パンチ)
2007年デビュー。強力なスラッシュサウンドと直球メタルを融合しつつもメロディアスなサウンドで大ブレイクし、2010年代で最も成功したメタルバンドの一つとなった。バラードもヒット。
Stone Sour(ストーン・サワー)
Slipknotのヴォーカル、コリィ・テイラーが所属しているもう一つのバンド、というかこっちが先。2002年にデビューアルバムを出し、以降6枚のアルバムをリリース。ヘヴィかつ親しみやすいハードロックサウンドで世界的に高い支持を得ている。
Disturbed(ディスターブド)
メロディアスなヴォーカルと鋼鉄度の高いソリッドなサウンドで世界的にブレイクを果たしたヘヴィロックバンド。 2011年に活動休止したが、2015年に活動再開を発表。
Steel Panther(スティール・パンサー)
2009年にデビュー。Motley Crue風のコーラスを重視したメタルサウンド、馬鹿すぎるパフォーマンスと歌詞に80年代グラムメタルへの強烈な愛情を感じることが出来る。今までにリリースした4枚のアルバムは楽曲としてはどれも完成度が高く、ソングライティングの実力は一級品。こういうプロレス的な楽しみ方も今のメタラーには必須。
Halestorm(ヘイルストーム)
2009年デビュー。爆走&キャッチーなロックサウンド、リジー・ヘイルの圧倒的なライブパフォーマンスとカリスマ性で徐々に人気を獲得。2018年にリリースした「Vicious」はチャート8位まで上がり、現代を代表するハードロックバンドの一つとなっている。
Greta Van Fleet(グレタ・ヴァン・フリート)
2016年デビューの4人組。ブルースやフォークをベースにしたキャッチーなクラシックロックサウンドで、楽曲の完成度も極めて高いことから、「ロックの未来」と形容される今最注目の超大型若手バンド。
世界のロックカルチャーの中心であるアメリカだが、現在は新型コロナウイルスで時が止まった様になってしまっている。メンバー自身だけでなく、ツアークルーやコンサート会場のスタッフも仕事を失うなど、かつてない苦境に立たされている。しかし数年経てば、きっと皆活動を再開できる状態に戻るはず。それまでの間、今まで聴いたことがなかったアーティストを発掘したり、懐かしい曲を数年ぶりに聴き返したりしてみて欲しい。サブスクの場合は再生回数に応じてアーティストに小金が落ちるので、応援にもなるのだ。